


※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
新人職員
前回は,「一日も早く釈放して欲しい。」のうち,「身柄送検の段階」の「身柄引受書」までのお話を聞かせていただきました。
弁護士
高橋裕
はい。今日は,その続き。検察官に釈放の手続の判断をしてもらうように働き掛ける弁護活動の「誓約書」,「上申書」について,お話します。
新人職員
はい。お願いします。
弁護士
高橋裕
まず,「誓約書」について。前回,冒頭で「必要です。」と言ってしまったのですが,当職は,実は「必要」とは考えていません。
新人職員
えー,弁護士向けの刑事弁護の本をみると,どの本にも,本人が作成する誓約書は必要みたいに書かれていますよ。
弁護士
高橋裕
はい,そのように書かれていることはそのとおりです。しかし,私の裁判官時代の経験上,裁判官の判断で釈放を決めようとする際・・・具体例には,勾留請求を却下する場合,保釈を許可する場合などの場面で,誓約書の提出を求めたことは,ありません。誓約書がなくても釈放相当と判断すれば釈放します。逆に,誓約書があっても釈放不相当と判断すれば釈放しません。誓約書の有無で結論が変わることはありません。弁護士さん,皆さん提出されていましたが・・・。
新人職員
えー,そうなんですか。他の裁判官も同じでしたか?
弁護士
高橋裕
少なくとも当職が合議事件で合議したときは,他の裁判官も同じでした。「釈放に賛成ですが,釈放するためには誓約書が必要です。」という意見を聞いたことは,当職がかかわった事件に限ればありません。
新人職員
検察官の判断で釈放される場合は,誓約書は必要ですか?
弁護士
高橋裕
裁判官時代に,検察官の考えを直接聞いたことはありません。しかし,裁判官の釈放の判断に対して,検察官が異議申立て(準抗告など)をする場合に,「誓約書を提出していないから釈放は許されない」という意見を見たことはありません。
新人職員
検察官も誓約書は不要と考えてるんでしょうか?
弁護士
高橋裕
検察官に直接確認する訳にもいきませんが,当職は弁護士になってから約4年間,裁判官時代と同じ考え(誓約書は不要)で検察官に釈放を求める弁護活動をしていますが,検察官から誓約書の提出を求められたことはありません。それでも,検察官から釈放の判断をもらっています。
新人職員
必要と思っていたのに,不要と言われるとショックだなぁ。それじゃ,逮捕されている人は,呼出しを受けたら必ず出頭するとか,犯罪行為をしないとか,誓約(約束)しなくてもいいということですか?
弁護士
高橋裕
それは,違います。誓約しなくてもいいのではなく,「誓約書」という書面,紙に書いたものは不要という話です。
新人職員
どういうことですか?
弁護士
高橋裕
誓約書という書面は不要ですが,「呼出しを受けたら必ず出頭するとか,犯罪行為をしないとか」,そのような誓約を本人がするかどうか,釈放の判断をする検察官や裁判官は,本人の供述を聴く手続の際に,あるいは事件記録を読み込んで,十分に確認しています。
新人職員
「誓約書」という書面は不要ですが,本人の「誓約」は必要で,その「誓約」があるかどうかは,検察官や裁判官は判断している,ということですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。まぁ,本人の反省の気持ちを表明するということで,「誓約書」にも意味が全くないわけではありません。
新人職員
わかりました。次に,「上申書」について説明してください。
弁護士
高橋裕
検察官に釈放の判断をしてもらうために作成する「上申書」は,当然,検察官宛てになります。示談成立,示談金の支払,本人の反省,身柄引受人の存在など,いろいろな事情を記載して,検察官から釈放の判断を貰えるように働き掛けます。
新人職員
不起訴処分にして貰いたい,と書くのですか?
弁護士
高橋裕
いいえ。この時点(身柄送検の段階)では,検察官の手元に記録が届いたばかりですので,起訴,不起訴という最終的な判断は,まだできません。
新人職員
上申書の結論は,何と書くのですか?
弁護士
高橋裕
「釈放して在宅捜査に切り替えていただきたい」と記載します。
新人職員
「在宅捜査」とは何ですか?
弁護士
高橋裕
本人(被疑者)について,逮捕勾留などの身柄拘束をしないで,自宅で生活を続けた状態で捜査をすることです。この段階では,まだ捜査が始まったばかりで今後も捜査を続けることが見込まれるので,このような記載をします。
新人職員
わかりました。その次の釈放のタイミングは,いつですか?
弁護士
高橋裕
検察官が釈放せずに裁判官に対し勾留請求をした場合です。勾留の判断をする裁判官宛てに,上申書を書いて提出します。「勾留をしないでいただきたい。検察官の勾留請求は却下して釈放していただきたい。」という内容です。
新人職員
裁判官宛ての上申書の内容は,検察官宛ての上申書の内容と同じですか?
弁護士
高橋裕
ほぼ同じです。検察官との面談や電話交渉で,検察官が釈放できないと考えている釈放のネックになっている事情などを把握していたら,それらの事情についての反論やリカバリーできる事情を記載しておくとよいでしょう。
新人職員
わかりました。その次の釈放のタイミングは,いつですか?
弁護士
高橋裕
残念ながら勾留されてしまった場合,勾留後であれば,時期を問わず(実際には速やかに),勾留に対する準抗告や,勾留取消請求をすることが考えられます。これらに手続については,詳細に研究した実例集などの書籍が刊行されていますので,当職からの説明を割愛します。
新人職員
わかりました。その次の釈放のタイミングは,いつですか?
弁護士
高橋裕
勾留された後,勾留に対する準抗告や,勾留取消請求が認められなかった場合,勾留の満期日で延長決定をされる前の釈放上申が考えらます。
新人職員
そのタイミングでは,どのように求めるのですか?
弁護士
高橋裕
勾留満期日に延長せずに,不起訴処分で釈放されたいとの上申が考えられます。
新人職員
その次のタイミングは,いつですか?
弁護士
高橋裕
延長後の勾留満期日に,不起訴処分で釈放されたいう上申書を提出します。仮に起訴するのであれば,在宅起訴をされたいという意見を,併記します。
新人職員
わかりました。その次の釈放のタイミングは,いつですか?
弁護士
高橋裕
勾留満期日に釈放されずに起訴されてしまった場合は,直ちに,保釈請求です。
新人職員
保釈請求は,かなり大きなイベントになっていますね。
弁護士
高橋裕
そうですね。保釈については,事前準備も含めて,いろいろとご説明することがあるので,項目を改めて,「保釈してほしい。」で検討しましょう。
新人職員
はい。今日は,「一日も早く釈放して欲しい(その2)」について,お話を聞かせていただきました。ありがとうございました。