


※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
新人職員
前回は,保釈の話の途中まででした。
弁護士
高橋裕
はい。
新人職員
今日は,その続き,「一日も早く保釈してほしい。」という話から,お願いします。
弁護士
高橋裕
わかりました。
新人職員
前回の最後に質問しましたが,事件によって,起訴後直ぐに保釈される場合もあれば,2~3週間経って保釈される場合もありますよね。
そんなに違いがあるのは,なぜですか?
弁護士
高橋裕
保釈の早い,遅いを決める要因は,幾つかあります。挙げてみます。
1 事件の難易(保釈が許可されやすい事件かどうか?)
2 保釈許可に対する弁護人の見通し(適切な判断ができるか?)
3 起訴前の準備(起訴前に可能なことは全て準備できているか?)
4 起訴後の活動(起訴後に速やかに保釈請求などの活動をしているか?)
5 保釈金の準備状況(親族の協力の程度)
新人職員
保釈の早い,遅いを決める要因って,幾つもあるんですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。順番に説明します。
1番「事件の難易」について,説明します
新人職員
保釈が許可されやすい事件と許可されにくい事件があるということですか?
弁護士
高橋裕
そうです。両極端を挙げるとわかりやすいと思います。
懲役前科のない被告人が犯した被害額僅少の万引き窃盗の自白事件で執行猶予判決が予想される事件は,保釈が許可されやすい事件です。
新人職員
それは,弁護士事務所で働き始めてから日の浅い私でも,分かります。
弁護士
高橋裕
逆に,実刑前科のある被告人が犯した殺人事件で殺意を争っている事件は・・・・・,
新人職員
それは,保釈が許可されにくい事件ですよね。
弁護士
高橋裕
そうですね。このように,事件の内容によって,保釈が許可されやすい事件と,保釈が許可されにくい事件とがある,ということをしっかりと理解しておくことが大切です。現実には,このような両極端な事件ばかりでなく,許可されるか,不許可となるか,微妙な事件が多くあります。
新人職員
はい。
弁護士
高橋裕
2番「保釈許可に対する弁護人の見通し」について説明します。
新人職員
これは,どういうことですか?
弁護士
高橋裕
実例で説明しましょう。2年くらい前に担当した事件でしたが,被害額がある程度大きい(具体例な数字を書くと事件が特定されるのでお許しください。)財産犯の共犯事件でした。逮捕後,直ぐに依頼を受けて弁護人として活動していました。
新人職員
保釈は,起訴後ですよね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。しかし,保釈の準備は起訴前からです。保釈が許可されるかどうか,難しい,微妙な事件でした。起訴前から保釈に向けた準備をする中で,保釈が許可され易いようにお膳立てを整えて,起訴直後に,保釈の請求をしました。難しい事件でしたが,無事に1回目の保釈請求で許可決定をもらうことができました。
新人職員
保釈金はいくらでしたか?
弁護士
高橋裕
難しい事件なので,名古屋の事件の中では高額の350万円でした。そして,1週間ほど後,共犯者の弁護人から弁護士高橋に電話が掛かって来ました。公判(裁判)をどういう方針で進めるかという問い合わせです。
新人職員
保釈の問い合わせじゃなかったんですか?
弁護士
高橋裕
そうなんです。弁護士高橋も,そう思いました。共犯者の弁護人からの問い合わせに差し支えのない限度で回答した後に,「ところで,保釈金は幾らでしたか?」と尋ねました。
新人職員
幾らだったんですか?
弁護士
高橋裕
びっくり。起訴後1週間も経過しているのに,まだ,保釈請求をしていなかったのです。その弁護士は,「この事件は保釈が難しいけれども,来週,ダメ元で1度,保釈請求してみます。」と言っていました。
新人職員
えっ,本当に,びっくりですね。まだ,保釈請求もしていなかったんですか?
弁護士
高橋裕
そうです。保釈が難しい事件だから保釈請求しても許可される見込みがないと考えていたようです。だから「来週,ダメ元で1度,保釈請求してみます。」と言ったのです。
新人職員
それを,聞いて,高橋先生はどうしたんですか?
弁護士
高橋裕
「私の担当している被告人は,もう保釈されていますよ。」と伝えました。その弁護士は,貴重な情報をありがとうございました,と言って電話を終えました。
新人職員
急いで保釈請求したんでしょうね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。その後,無事に保釈されたようです。
新人職員
保釈の時期にずいぶんと差がつきましたね。
弁護士
高橋裕
そうですね。弁護士高橋は,難しい事件ではあるが,保釈は許可されるであろうという見通しに基づいて保釈請求をし,起訴後間もなく,保釈許可決定,保釈金納付,釈放という良い流れに乗ることができました。
新人職員
共犯者の方は,良い流れに乗り遅れたんですね。高橋先生の担当している被告人が既に保釈されていることを聞かなければ,もう少し遅くなっていたかも知れませんね。
弁護士
高橋裕
そうですね。私は,この件を通じて,一日も早く保釈されるためには,やはり,弁護士として,保釈の許可不許可の見通しが大事であることを痛感しました。
新人職員
まだ,保釈の話が終わってないのですが,時間的に,また,次回ですか?
弁護士
高橋裕
そうですね。時間が足りなくなって来ましたので,今日は,ここまでにしましょう。次回は,3番「起訴前の準備(起訴前に可能なことは全て準備できているか?)」から説明しましょう。
新人職員
はい。今日は,「保釈してほしい(その2)。一日も早く保釈してほしい。」の2番まで,お話を聞かせていただきました。ありがとうございました。