

新人職員
今日は,保釈の話をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。まず,初めに,保釈のイメージをお尋ねしますが,保釈についてどのようなイメージを持っていますか?
新人職員
テレビのニュースでよく見るのが,芸能人,元スポーツ選手,政治家など,社会的に注目される人が,何百万円とか何千万円という高額の保釈金を裁判所に納めて,警察署から出てくるというイメージです。
弁護士
高橋裕
そうですね。普通は,そんなイメージですね。保釈金は,稀に億単位になることもありますね。ところで,保釈されるのは,逮捕されてすぐですか?
新人職員
えー,すぐではないと思います。○○容疑者が逮捕されましたというニュースがあって,しばらくしてから,保釈のニュースがあります。
弁護士
高橋裕
そうですね。イメージを質問したのは,まず初めに,保釈が認められる時期をを知ってもらいたかったのです。
新人職員
えっ,それは皆さん,知っているんじゃないですか?
弁護士
高橋裕
そうでもないんですね。逮捕された人の初回接見(面会)に行くと,逮捕された人から,いきなり,「先生,保釈金は何とか用意しますので,直ぐに保釈の手続をお願いします。」と言われることが時々あります。逮捕されている人の親族から,同じようなことを言われたこともあります。
新人職員
あっ,そうなんですか。
弁護士
高橋裕
はい。もちろん,「保釈」という手続に限らず,「とにかく釈放して欲しい。」という趣旨であれば理解できるのですが・・・。よく話を聴いてみると,「逮捕されても,高額の保釈金を納めれば直ぐに保釈される。反対に,高額の保釈金を用意するだけのお金(資力)がない人は保釈されない。」と思い込んでいる人がいるのです。
新人職員
その思い込みって,2つの点で勘違いしていますよね。
弁護士
高橋裕
よく,わかりましたね。勘違いしている2つの点について,正しく言えますか?
新人職員
はい。1点目は,逮捕されて直ぐに保釈が認められるという点。2点目は,保釈金を納めれば保釈されるという点です。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
詳しいことは分かりませんので,高橋先生の方で説明してください。
弁護士
高橋裕
はい。まず,1点目です。逮捕されて直ぐに保釈の手続はありません。保釈は起訴(検察官が裁判所に対して行う正式裁判請求)の後です。逮捕後,勾留された場合であれば,曜日の関係もありますが,名古屋の場合,逮捕日から10日くらい後(勾留が延長されていると逮捕日から20日くらい後)になります。
新人職員
保釈の手続ができる時期が,まず大事ですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
次に,保釈金と保釈の正しい関係を教えてください。
弁護士
高橋裕
はい。この点も勘違いしている人が時折います。テレビで見る有名人の保釈のニュースの影響と思います。「今日,○○被告人が保釈金1500万円を裁判所に納めて保釈されました。今,▲▲警察署から出てきました。」などと言ってますからね。
新人職員
保釈金と保釈は,正確にはどういう関係ですか?
弁護士
高橋裕
保釈で警察署から出てくるためには,まず,裁判官(裁判所)の保釈許可決定が必要です。その決定書に「被告人○○の保釈を許可する。」と書かれています。裁判官(裁判所)が保釈を許可しなければ,保釈金を納めても保釈されません。そもそも,保釈金の金額も分かりません。
新人職員
保釈金の金額が分からないというのはどういうことですか?
弁護士
高橋裕
保釈金(正確には「保釈保釈金」)は,裁判官(裁判所)が保釈許可決定を出すときに,その保釈許可決定書に「保釈金額は金●●●万円とする。」と書かれています。それで保釈金の額が分かります。
新人職員
ちなみに,保釈が許可されない場合は,裁判官の決定は出るのですか?
弁護士
高橋裕
はい。その場合は,保釈請求却下決定という決定が出て,その決定書の中に「被告人○○の保釈請求を却下する。」と書かれています。当然,保釈金の記載はありません。
新人職員
途中ですけど,その「裁判官(裁判所)」という言い方をするのは,なぜですか?裁判官と裁判所は一緒じゃないんですか?
弁護士
高橋裕
法律的には違うのですが,話が専門的に細かな話になるので,今後は,「裁判官(裁判所)」のことを単純に「裁判官」と言いましょう(どこかで機会があれば,その違いをご説明します。)。
新人職員
はい,わかりました。高橋先生,質問が2つあります。一つ目,どうしたら,裁判官から保釈の許可を貰えますか?。二つ目,裁判官は保釈金の額をどうやって決めているのですか?
弁護士
高橋裕
はい,順番にお答えします。一つ目,どうしたら,裁判官から保釈の許可を貰えますか?,についてお答えします。
最も大事なのは,「保釈されても被告人が証拠を隠したり,証拠の捏造などをする心配はない。」と裁判官に理解してもらうことです。
新人職員
少し勉強したのですが,裁判官が保釈を許可するかを判断するときには,他にもいろいろと検討すべき要素があると思うのですが・・・。
弁護士
高橋裕
よく,勉強していますね。法律上は,いろいろな判断要素が書かれています。
しかし,裁判官が実際に,保釈の許可不許可を判断する際には,「保釈されても被告人が証拠隠しや証拠の捏造をする心配はないかどうか。」(「罪証隠滅のおそれ」)のほぼ・・・1点です。常習的犯行であるとか,過去に重い罪で判決を受けたことがあるなどという事情は,皆,「罪証隠滅のおそれ」を判断するときの判断資料の一つです。
新人職員
あぁ,そうなんですか。
弁護士
高橋裕
保釈に限らず,裁判官の判断を受ける場面では,裁判官が判断をする際にどの点を重視しているかに着目して,弁護活動をすることが肝要です。
新人職員
高橋先生は,ご自分が裁判官を長年務めて来たので,裁判官がどの点を重視しているか,よくわかるのですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。裁判官としての,自分の判断の重点事項は身に染みついています。また,一緒に合議事件を担当した他の裁判官,一緒に合議を担当していないが,判断に迷う事案などで意見交換をした周りの裁判官の考え方も知識として持ち併せています。
新人職員
保釈されても被告人が証拠隠しや証拠の捏造をする心配はない,つまり,罪証隠滅のおそれがないということを,どのようにして裁判官に理解して貰うのですか?
弁護士
高橋裕
その点は,多くの弁護士さんが,いろいろなところで述べられていますね。
事件の内容,検察官が予定するであろう立証構造,起訴前の被告人の供述状況,供述経過,共犯者,被害者,その他の事件関係者との関係,距離など,いろいろな観点から,保釈請求書に記載します。
新人職員
もう少し具体例な説明をして貰えるとありがたいのですが・・・。
弁護士
高橋裕
個々の事件により,いろいろな状況が異なりますので,今述べたような一般論としての説明は可能ですが,具体例な説明は難しいですね。申し訳ありません。
新人職員
わかりました。もう一つの質問,裁判官は保釈金の額をどうやって決めているのですか?,について説明をお願いします。
弁護士
高橋裕
保釈金の額は,「罪証隠滅のおそれの程度」,「逃亡の恐れの程度」,「被告人の資力の程度」などを考慮要素として決められます。
新人職員
いくらになるのか,さっぱり分かりません。
弁護士
高橋裕
実情を説明しましょう。名古屋では,保釈金の最低ラインは150万円です。それを目安にして,最低ラインどおり,150万円,200万円,300万円,それ以上と高額になって行きます。
新人職員
その差は,先ほどの「罪証隠滅のおそれの程度」,「逃亡の恐れの程度」,「被告人の資力の程度」ですか?
弁護士
高橋裕
そのとおりです。ただし,裁判官は,「罪証隠滅のおそれの程度」,「逃亡の恐れの程度」について記録(証拠書類)を読み込んで判断できますが,「被告人の資力の程度」は必ずしも記録(証拠書類)だけでは判断できません。
新人職員
どうするのですか?
弁護士
高橋裕
高額になりそうな場合,保釈請求書に「被告人の資力に照らし,保釈金は●●万円が相当」などと記載したり,裁判官と面談あるいは電話で,被告人の資力の実情と意見を伝えるなどして,仮に高額であっても被告人が支払うことのできる額を限度にして貰います。
新人職員
そうですよね。保釈が許可されても納付できない保釈金の額にされたら,結局は不許可にされたのと同じですよね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
追加の質問です。起訴後,一日も早く保釈されるためにはどうしたらよいですか?。事件によって,起訴後直ぐに保釈される場合もあれば,2~3週間経って保釈される場合もありますよね。
弁護士
高橋裕
そうですね。時間が足りなくなって来ましたので,この点は,項目を改めて,「保釈してほしい(その2):一日も早く保釈されるためにはどうしたらよいですか?」という項目でご説明しましょう。
新人職員
はい。今日は,「保釈してほしい(その1)」について,お話を聞かせていただきました。ありがとうございました。