否認事件その2(本当に犯罪行為を行なっていない場合) | 元裁判官による刑事弁護、名古屋の弁護士・高橋裕

名古屋の元裁判官による刑事弁護、成田龍一法律事務所 高橋裕弁護士
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否認事件その2(本当に犯罪行為を行なっていない場合)

※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。

新人職員

前回は,「捕まっている人が本当は犯罪行為を行なっている場合」の弁護活動についてお話をいただきました。

弁護士
高橋裕

はい。

新人職員

今日は,もう一つの場合,「捕まっている人が本当に犯罪行為を行なっていない場合」について,説明してください。

弁護士
高橋裕

分かりました。それでは,いつもの様に実例に基づいてご説明します。プライバシー保護のため少し編集している点もいつもと同様です。

新人職員

はい。

弁護士
高橋裕

自営業をしている犯罪経歴のない男性が詐欺罪で逮捕されました。逮捕容疑(=被疑事実)は複数共犯者と共謀して複数被害者から多額の金銭を騙し取ったというものです。驚いた妻が私のインターネット広告を見て電話を掛けてこられて受任しました。そして,すぐに初回接見(弁護士面会)をしたという事案です。

新人職員

その事案は,「逮捕されている人が本当に犯罪行為を行なっていない場合」ということですね。

弁護士
高橋裕

そうです。いわゆる冤罪と言われるものです。
初めての接見で,自己紹介,誰からの依頼で接見に来たかなどを説明した後,逮捕容疑(被疑事実)の確認をします。

新人職員

逮捕状のコピーは,弁護士の手元にあるのですか?

弁護士
高橋裕

いいえ。勾留状のコピーは入手できますが,逮捕状については議論の余地はあるものの,現在の実務では逮捕状のコピーは手元に無い状況で接見します。捕まった人からの聴き取りが大事です。

新人職員

捕まった人は,逮捕状に書かれた容疑事実(被疑事実)を覚えていますか?

弁護士
高橋裕

全部正確に覚えていることは希です。殊に,容疑事実(被疑事実)が詳細な場合はなおさらです。

新人職員

容疑事実(被疑事実)が正確に分からないのに,どうやって弁護活動をするのですか?

弁護士
高橋裕

罪名は分かっています。容疑事実(被疑事実)の概要も聴き取りで分かります。捕まった人の言い分も聞き取ります。これらの3点が分かると,その事件における容疑事実(被疑事実)のポイントが分かります。そのポイントに沿って聴き取りを続けて行くと弁護活動における重要部分が分かるので,その重要部分に集中して今後の取調べに向けての注意点を説明するなどの弁護活動をします。

新人職員

先ほどの具体的な事件,「詐欺の共犯として逮捕されたという事件」を例にして説明してください。

弁護士
高橋裕

詐欺の実例で説明します。詐欺について犯罪行為をしていないという場合,①全く身に覚えがない場合,②お金は受け取ったが人を騙すようなことはしていない場合,③自分は関わっていないが,人を騙してお金を受け取った人たちと共犯であるとされている場合など,他にもいろいろな場合があります。

新人職員

詐欺の否認事件と言っても多様なのですね。

弁護士
高橋裕

そうです。先ずは,捕まった人から詳しい事情を聴き取って,どこを争っているのか(争点)を確認します。争点(争っている点)が確認できたら,争点に沿って基本的な弁護方針を立てます。

新人職員

否認事件のうち冤罪事件の基本的弁護方針は,どういうものですか?

弁護士
高橋裕

大きく分けて2つです。一つ目は,捕まった人にとって不利な供述調書が作成される事態を回避すること。もう一つは,捕まった人にとって有利な事実を探し出すことです。

新人職員

一つ目は守り(防御)で,二つ目は攻め(反撃)ですね。

弁護士
高橋裕

そのとおりです。一つ目の守り(防御)から説明します。
逮捕されると,容疑事実(被疑事実)について取調べが行われ,取調べの結果,逮捕されている人が話した内容について供述調書が作成されます。

新人職員

供述調書は,検察官や警察官が作成するものですね。

弁護士
高橋裕

そのとおりです。記載される内容は逮捕されている人の話したこと(供述)であるにもかかわらず,作成するのは取調べを担当した検察官や警察官です。供述者と作成者が一致していないため,供述者(被疑者)の署名押印があったとしても,後日裁判になったときに,被告人(捜査時点では被疑者)が,『その調書に書いてあることは違います。』と言う事態が起こるのです。

新人職員

『その調書に書いてあることは違います。』と言った場合,どうなるのですか?

弁護士
高橋裕

裁判官が,法律に基づいた審理をして,供述調書に書いてあることが正しいのか,それとも,被告人が裁判官の目の前で話していることが正しいのか判断することになります。残念ながら,供述調書に書いてあることが正しいと判断される例が多いのです。

新人職員

それは,良くないですね。

弁護士
高橋裕

そうです。誤った内容の供述調書の問題については,裁判官の目の前で違うと訴えることよりも,そもそも,そのような誤った内容の供述調書を作らせないことが大事です。取調べで供述調書を作るとき,作る前が勝負のしどころです。

新人職員

誤った内容の供述調書を作らせないためには,どうしたらよいでしょうか?

弁護士
高橋裕

捕まった人がいる警察署に頻繁に面会(接見)に行って,取調べ状況を詳しく聴き取り,必要なアドバイスをしたり,既に誤った供述調書が作成されてしまっている可能性がある場合は,「抗議書」,「意見書」などといった書面を警察や担当検察官に提出するなどの手段を取ります。

新人職員

既に供述調書が作成されてしまった後に,「抗議書」,「意見書」などといった書面を警察や担当検察官に提出することに意味はあるのでしょうか?

弁護士
高橋裕

2つあります。一つは,今後,そのような供述調書が作成されることを抑制することに繋がります。もう一つは,既に作成されてしまった供述調書の内容が誤っていることを速やかに指摘しておくことによって,先々,裁判官の目の前で訴えるときに信用してもらえる可能性を高める意味があります。

新人職員

否認事件の場合,黙秘権を行使するようアドバイスして,捕まった人に何も話させない,あるいは,話をしてもいいが供述調書への署名押印のみ拒否させる,という方法を聞いたことがあります。

弁護士
高橋裕

そのような方法が有効な場合もあります。しかし,全ての事件について,その方法が有効であるとは必ずしも言えません。結局は,個々の事件の内容や予想される検察官請求予定証拠の状況などを総合的に考慮して,黙秘権行使などするかどうか決めます。

新人職員

二つ目の攻め(反撃)について説明してください。

弁護士
高橋裕

攻め(反撃)も基本は捕まった人と面会(接見)して詳しい話を聴くことです。
弁護人は,警察と違って独自の証拠を持っている訳ではないので,基本は,捕まった人の話を聴いて,その中から攻め(反撃)の材料を発見することになります。

新人職員

攻め(反撃)の材料について,具体例を挙げて説明してください。

弁護士
高橋裕

今回取り上げている詐欺の事案で一例を示すと,「仮に騙すつもりであれば,そのような行動はしないであろう。」という事実が話の中に出てくることが時折あります。事件ごとに,このようなポイントが何種類もあります。捕まった人は法律や裁判の専門家ではないので,自分ではそのポイントに気付いていません。弁護士がその事実に気付くことができるかどうかが勝負の分かれ目です。

新人職員

弁護士が話を聴いていれば,誰でも気付くのでしょうか?

弁護士
高橋裕

漠然と聞いていたのであれば,まず,気付きません。気付かないまま,スルーしてしまいます。日頃から,どのような事件ではどのようなポイントがあるか,着眼点を明確に意識していれば,気付くことができます。漫然と聞いているだけでは気付きません。

新人職員

その着眼点はどのようにして身に付けるのでしょうか?

弁護士
高橋裕

これも,今まで何度も説明してきた「知識と経験」です。
常に問題意識をもって多くの事件に当たっていれば,自ずから身に付いてきます。ポイントは,当然のことながら,事件によって異なります。いろいろな事件を経験し,常に問題意識をもって事件に当たることが大事です。

新人職員

攻め(攻撃)の材料を発見した場合,警察や検事にそのことを伝えるのですか?

弁護士
高橋裕

時間が無くなってきたので,警察や検事への申し入れについては,次の機会に譲ります(別の項目でご説明します)。

新人職員

はい。
今日は,「捕まっている人が本当に犯罪行為を行なっていない場合」の弁護活についてお話をいただきました。ありがとうございました。

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