


※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
新人職員
今日は,「余罪は隠してもいいの?」というテーマでお話をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。先ず,このテーマに関してお話したいのは,「余罪を隠す」という表現についてです。
新人職員
何か,「証拠を隠す」という表現と似ていますね。表現が似ているだけでなく,イメージも似ていますね。何か,してはいけないことをするような・・・。
弁護士
高橋裕
そうですね。「余罪を隠す」という表現をすると「証拠を隠す」と同じ意味に受け取られる心配がありますので,「余罪について供述しない」という言い方にしましょう。
新人職員
そうですね。法律的に見れば,「余罪について供述しない」のは憲法で保障されている黙秘権の行使ですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。他方,「証拠を隠す」のは,警察,検察,裁判とつながる刑事司法の判断を誤らせる可能性のある積極的な行為です。単に「供述しない」という行為とは明らかに異なります。刑事訴訟法の条文にも「証拠隠し(罪証隠滅)」はいろいろな場面で登場します。起訴前の被疑者を勾留する理由になったり,起訴後は被告人の保釈を認めない理由になったりします。
新人職員
それでは,「余罪を隠す」ではなく,「余罪について供述しない」(黙秘権を行使する)ことは,逮捕勾留された人にお勧めでしょうか?
弁護士
高橋裕
個々の事案によるというのが回答です。
新人職員
余罪について供述しない方が良い場合もあれば,供述した方が良い場合もある,ということですか?
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
その基準,目安は何ですか?
弁護士
高橋裕
一言で言えば,黙っていても他の証拠から最終的に警察に分かってしまう場合は,積極的に供述した方が良い,ということになります。
新人職員
黙っていても他の証拠から警察に分かってしまうのに,余罪を供述しなかった場合はどうなりますか?
弁護士
高橋裕
余罪を黙っていて,後日,他の証拠から警察に発覚した場合,具体的な不利益処分がある訳ではありませんが,とても印象が悪くなります。
新人職員
逆に,黙っていれば警察に分からない場合は供述しない方が良い,ということですか?
弁護士
高橋裕
罪を重くしたくないのであれば,そうなります。先ほども話が出たとおり,憲法で保障された黙秘権を行使する行為です。
新人職員
黙っていれば警察に分からないと思ったけれども,自分から進んで余罪を供述してもよいのですか?
弁護士
高橋裕
黙秘権は,自ら進んで言わなくても良いという権利です。言ってはいけないというルールではありません。黙秘権があることを理解し,黙秘権を行使せずに自分に不利益なことを言った結果どのような状況になるか,十分に認識した上で供述するのは,被疑者,被告人の自由です。
新人職員
言っても,言わなくても良いということですね。
弁護士
高橋裕
そうです。被疑者,被告人の側に,言う,言わないの自由があります。言うことを強制されません,というのが黙秘権の核心です。ただし,被疑者,被告人が自ら進んで余罪を供述しようと考えた場合,余罪を供述することによってどの程度の不利益が生ずるか?担当弁護士と十分に相談することをお勧めします。
新人職員
担当弁護士には,隠さずに伝えるのですね。
弁護士
高橋裕
当然のことですが,担当弁護士には隠し事をしないで正直に話をすることが大事です。
新人職員
担当弁護士に隠し事をすると,弁護士も正しいアドバイスができないことになりますね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
もし仮に,黙秘権がなかったら,どうなりますか?
弁護士
高橋裕
取り調べる側は,被疑者,被告人に供述を強く迫ることができます。自白を強要しやすくなります。冤罪を生むことに繋がってきます。過去の歴史的な事実が証明しています。歴史的な反省を踏まえて黙秘権が保障されているのです。
新人職員
大切な権利なのですね。
話を戻しますが・・・黙っていても他の証拠から警察に分かってしまう場合と,黙っていれば警察に分からない場合は,どのように判別できるのですか?
弁護士
高橋裕
個別の事案によります。先ずは,依頼者(被疑者)の話をよく聴き取ることは必須です。その他,警察がどの程度の証拠を持っているのかを,取り調べ内容などいろいろな状況から推認します。
新人職員
余り具体的な話になりませんが,それも各弁護士のノウハウですか?
弁護士
高橋裕
そのとおりです。刑事事件を担当した経験が豊富な弁護士であれば,警察がどの程度の証拠を持っているのか推認するノウハウを持っています。弁護士高橋も持っています。この場では説明しづらいものであることをご了承ください。
新人職員
実際の事件を依頼して弁護活動をしてもらう場合は,そのノウハウを教えて貰えるのですね。
弁護士
高橋裕
それは勿論です。依頼者(被疑者)にも協力して貰いますので,当然,教える,というよりも十分に理解して貰うことになります。
新人職員
わかりました。
今日は,「余罪は隠してもいいの?」というテーマでお話をしていただきました。ありがとうございました。