


※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
新人職員
初めに,これまでの経歴と,現状を教えてください。
弁護士
高橋裕
昭和60年に裁判官に任官しました。初任の裁判所は,福岡地方裁判所です。刑事部に所属して,合議事件の左陪席裁判官と,令状担当裁判官が主な仕事でした。
新人職員
合議事件の左陪席裁判官とはどのような立場ですか?
弁護士
高橋裕
刑事事件には,殺人など刑罰が重い事件と,万引き(窃盗)など刑罰が軽い事件があります。
刑罰が軽い事件は,原則として,一人の裁判官が審理して判決します。
刑罰が重い事件は,慎重に審理判決する必要性が高いという理由で必ず3人の裁判官で審理して判決します。テレビのニュースなどでご覧になることも多い,黒い服を着た裁判官が3人少し離れて並んでいるあの映像です。3人で合議(相談)しながら審理判決をするので,合議事件と言われます。その3人のうち裁判長の左側に座っているのが,左陪席裁判官です。主に,合議事件の合議(相談)の案を提示したり,判決書の原案を作成する仕事をしています。
新人職員
左陪席裁判官について,丁寧な説明,ありがとうございました。それでは,経歴の続きをお願いします。
弁護士
高橋裕
初任の福岡地方裁判所刑事部で2年間勤務した後は,松江地方家庭裁判所(3年間),松山地方家庭裁判所西条支部(3年間),名古屋地方裁判所(3年間),仙台地方家庭裁判所古川支部(4年間),金沢地方裁判所(4年間),名古屋地方裁判所(2年間),名古屋高等裁判所(7年間),名古屋地方家庭裁判所半田支部(2年間)の順に勤務しました。全部で30年間の裁判官勤務になります。
最後の半田支部では裁判事務のほか,支部の司法行政を担当する支部長を務めました。
新人職員
いろいろとお尋ねしたいことがあるのですが,一番気になるのは,全部で30年間の裁判官勤務のうち,刑事事件と言われる事件を担当していた時期とその年数です。
弁護士
高橋裕
大まかに言うと,30年間のうち約20年間,刑事事件を担当していました。その20年間の刑事事件担当期間のうち,7年間は同時に少年事件も担当していました。30年間の後半は,ほとんど,刑事事件と少年事件です。
新人職員
もう1点,気になるのが,名古屋高等裁判所に7年間勤務していたことです。高等裁判所は,そんなに長く勤務するものなのですか?
弁護士
高橋裕
おっしゃるとおり,7年間は長いです。通例では,高等裁判所勤務は2~3年間,長い裁判官でも4~5年間です。
私は,個人的な事情(機会があれば,その際にご説明します)により,7年間勤務しました。7年間は,刑事事件と少年事件のみでした。
高等裁判所の仕事は,地方裁判所あるいは簡易裁判所の裁判官が行なった審理判決について,審査して高等裁判所としての判断を示すというものです。
地方裁判所や簡易裁判所の他の裁判官の審理判決を審査するという難易度の高い仕事をすることで裁判官としての実力が飛躍的に伸びていくことを感じました。
また,高等裁判所では,全部の事件が合議事件ですので,毎日合議を行う中で,高等裁判所の他の裁判官の考え方,事件に対する捉え方を理解するという貴重な経験を数多くすることができました。このことが,今の弁護士活動にいろいろと活かされていると思います。
新人職員
弁護士になったのは,いつですか?
弁護士
高橋裕
平成27年6月です。いまから約4年前です。
新人職員
裁判官経験が豊富なので,弁護士になっても困ることは無かったのではないですか?
弁護士
高橋裕
いやいや。わからないことだらけでした。
裁判官には見えていない弁護士としての仕事,活動が予想以上にたくさんありました。当初は,大変苦労しました。
それと同時に,弁護士には見えていない裁判官の仕事,活動も,多くの弁護士が予想している以上に数多くあることにも改めて気付かされました。
新人職員
30年間の裁判官経験と,約4年の弁護士経験をしてみて,どんな感想をお持ちですか?
弁護士
高橋裕
同じ土俵,舞台で仕事をしていても,立場が違えば物の見方がここまで違ってくるのかと,改めて感じて驚いています。
双方の経験をしているからこそ,事件に対する見通しなどを深めることができます。その深みを,弁護士としての活動に活かして行きたいと考えています。
新人職員
今日は,自己紹介をありがとうございました。