

新人職員
今日は,いろいろな事件のうち,「痴漢,盗撮など性的犯罪(条例違反)」というテーマで説明をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。痴漢,盗撮などの犯罪(条例違反)は,性的犯罪と言われる犯罪ですが,強制性交(強姦),強制わいせつなどに比較すると,条例等で定められている刑罰が軽くなっています。
新人職員
軽い罪と考えていいですか?
弁護士
高橋裕
定められている刑罰(法定刑)が軽い,という意味です。刑罰が軽くても,執拗な行為態様で被害者に大きな心の傷を残すような事案や,同種の犯行を繰り返し行っていたりして悪質といわざるを得ない事案もあります。「軽い罪」であるとか,「罪が軽い」と考えるのは適切ではありません。
新人職員
このような事件の場合,担当弁護士としては,どのような弁護活動をするのですか?
弁護士
高橋裕
被害者のいる犯罪ですから,先ずは,被害者に謝罪して示談の申し入れをすることになります。
新人職員
被害者への連絡の手順はどうなりますか?
弁護士
高橋裕
他の項目でも説明していますが,まず,担当検事に電話して,被疑者(依頼者)が犯罪事実を認めていること,被害者にお詫びしたい気持ちがあること,受け取っていただけるのであれば,示談金を用意したので,受け取っていただきたい旨を伝え,その意向を被害者に伝えて欲しいと希望します。
新人職員
担当検事が,被害者の意向を確認してくれるのですか?
弁護士
高橋裕
担当検事(あるいは担当検察事務官)が被害者に連絡し,担当弁護士が示談をしたいと言っている旨伝え,連絡先(電話番号)を教えてもよいか尋ねてくれます。
新人職員
それで,連絡先(電話番号)を教えて貰えるのですね。
弁護士
高橋裕
連絡先(電話番号)を教えてくれるかどうかは,被害者の気持ち次第です。被害者が了承しないのに,担当検事が弁護士に被害者の連絡先(電話番号)を教えることはありません。
新人職員
教えて貰えたら,被害者に連絡して,示談交渉のスタートですね。
弁護士
高橋裕
被害者の連絡先(電話番号)を教えて貰えたら,直ぐに連絡しますが,その電話で直ぐに示談交渉を始めない場合もあります。
新人職員
どうしてですか?
弁護士
高橋裕
窃盗のような財産的被害を与えた場合は,その財産的被害を弁償するという金銭的な話が中心となりますが,痴漢,盗撮などの性的犯罪の被害者は心理的に大きな傷を負っていますので,いきなり金銭賠償の話をしても聴いてもらえないことが多いです。
新人職員
そういう場合は,どうしたらよいでしょうか?
弁護士
高橋裕
いきなり金銭賠償の話をするのではなく,先ず,被害者の心の痛手を理解することが大切です。
新人職員
難しいですね。
弁護士
高橋裕
心の痛手の大きい被害者は,自分から弁護士に心の傷がいかに酷いものか訴えてきます。それを良く聴いて,被害者の心の痛手を十分に理解します。
新人職員
そうは言っても,金銭賠償の話をしないと示談になりませんよ。
弁護士
高橋裕
先を急いでは,いけません。被害者の話を遮って金銭賠償の話を始めると,この弁護士は自分の受けた心の傷を理解しようとしない,信用できない,と思われ,その後の賠償,示談の話も円滑に進みません。
新人職員
被害者の立場から見れば,そのとおりですね。
弁護士
高橋裕
被害者の話を十分に聴いて,被害者の心の痛手を理解しようと努力していることを正しく認識して貰ってから初めて金銭賠償の話を提示します。
新人職員
タイミングが難しいですね。時間的に言うと,どのくらいですか?
弁護士
高橋裕
一律に時間で示すことはできません。被害者の心の痛手は千差万別です。個々の事案ごと,被害者ごとに異なります。
新人職員
具体的な事件で被害者と話をするときに,どのようにして金銭賠償の話を始めるタイミングを見極めるのですか?
弁護士
高橋裕
それは,抽象的な言い方になってしまいますが,数多くの被害者と示談交渉をした経験に基づく判断としか言いようがないです。
新人職員
高橋弁護士は,これまでに,どのくらいの被害者の方と示談交渉をしていますか?
弁護士
高橋裕
弁護士になって,およそ4年間で,性的犯罪の被害者と示談交渉をしたのは,被疑者の数で20人くらい,被害者の数で言うとその2倍~3倍くらいかと思います。
新人職員
被疑者の数よりも被害者の数が多いのはなぜですか?
弁護士
高橋裕
痴漢や盗撮の場合,発覚するまでに繰り返し行なっている場合が多く,一度発覚して逮捕されると,一人の被疑者について5件~10件くらい事件化されることが時折あるからです。
新人職員
なるほど。ところで,示談金の金額はどのようにして決まるのですか。
弁護士
高橋裕
示談金の金額に決まりはありませんが,罪ごとに相場と言われるものはあります。それぞれある程度の幅があり固定した金額ではありません。
新人職員
被害者が示談金の相場を知っていることはありますか?
弁護士
高橋裕
あります。被害者が調べるなどしていることもあります。インターネットで検索すると出て来ます。
新人職員
そういう被害者もいるのですね。
弁護士
高橋裕
はい。示談交渉の中で,直接,言われたこともあります。
新人職員
示談金の額を決めるに際して注意することはありますか?
弁護士
高橋裕
性的犯罪の示談金は,被害者の心の痛手を癒やすものであるということを念頭に置くことが大切です。
新人職員
どういうことでしょうか?
弁護士
高橋裕
相場からかけ離れた低い金額を提示すると,被害者としては,自分の心の傷をそんなに小さいものと考えているのだと理解します。示談成立に至ることは難しいです。
新人職員
示談不成立に終わってしますということですか?
弁護士
高橋裕
示談金の額を増やして挽回する余地がない訳ではないですが,最初の連絡限りで「もう結構です。」と言われる危険性があります。支払額を少なくするために示談金を小出しにして行くという考えもありますが,私はそのような考えはしません。
新人職員
高橋弁護士は,最初の連絡限りで「もう結構です。」と言われたことはありますか?
弁護士
高橋裕
私は,示談金を小出しにする方法はとりませんので,そのようなことを言われたことはありません。
新人職員
痴漢,盗撮などの事件で,示談が成立してよい結果が得られた事案はありますか?
弁護士
高橋裕
数多くあります。具体的には,「解決事例のご紹介」の項目でご説明致します。
新人職員
示談以外に,弁護活動で大事なことはありますか?
弁護士
高橋裕
この種の犯罪は繰り返される危険性が高いので,再犯防止策をしっかりと検討して実行させることが重要です。もちろん,親族など周りの人達の支えも必要となってきます。
新人職員
わかりました。今日は,痴漢,盗撮など性的犯罪(条例違反)について説明していただきました。ありがとうございました。