

新人職員
今日は,「いろいろな事件」のうち,「少年の刑事事件」というテーマで説明をお願いします。
弁護士
高橋裕
早速ですが,「少年の刑事事件」の「少年」はどういう意味ですか?
新人職員
「未成年者」という意味です。今の少年法ですと,20歳未満です。
弁護士
高橋裕
そうですね。男性か女性かについては,いかがですか?
新人職員
通常の用語と異なり,男性も女性も未成年者であれば「少年」です。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。女性未成年者も「少年」と呼ぶので,注意が必要です。
新人職員
はい。
弁護士
高橋裕
次に,「少年事件」の説明です。「少年事件」は,手続の段階に対応して2段階に分かれます。
新人職員
「少年の刑事事件」と「少年の保護事件」ですか?
弁護士
高橋裕
そうですね。よく,勉強していますね。どのように,区別されますか?
新人職員
家庭裁判所に送致される前は「少年の刑事事件」,家庭裁判所に送致された後は「少年の保護事件」ですか?
弁護士
高橋裕
概ねそのとおりですが・・・余り自信がなさそうですね。
新人職員
はい。一応,知識としては知っているのですが,「家庭裁判所に送致」というのがよく分からないので・・・。
弁護士
高橋裕
成人の場合と対照してみると,理解しやすいかと思います。成人の刑事事件の場合,弁護士が係わることが多い事件は,逮捕,勾留されて地方裁判所(簡易裁判所)に「起訴」される流れですね。
新人職員
はい。
弁護士
高橋裕
少年の刑事事件の場合,弁護士が係わることが多い事件は,逮捕,勾留(少年鑑別所送致)されて,家庭裁判所に「送致」されます。
新人職員
あっ,そうすると,少年刑事事件の「家庭裁判所に送致」は,成人刑事事件の「地方裁判所(簡易裁判所)に起訴」に当たるということになりますね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。細かいことを言うと,いろいろと違いがありますが,大まかな流れとしては,その理解でよいと思います。
新人職員
もう1点,「逆送」というのを聞いたことがあるのですが・・・
弁護士
高橋裕
よく知っていますね。家庭裁判所送致の後に,家庭裁判所から検察官に事件が送致されることがあります。最初の送致と逆方向なので「逆送」と呼ばれます。「逆送」後は,再び「少年の刑事事件」となります。今日は,「逆送」の話は時間の都合上,割愛します。
新人職員
わかりました。それでは,「少年の刑事事件」(家庭裁判所送致前)の説明をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。少年の刑事事件は,少年法という法律で定められている場合はその定めに従いますが,それ以外は成人の刑事事件と同じ扱いになります。
新人職員
成人の刑事事件と大きく異なるのですか?
弁護士
高橋裕
少年法にはいろいろと定められていますが,家庭裁判所送致前で実務上問題となるのが,逮捕に引き続く勾留です。
新人職員
先ほど気になっていたのですが・・・『少年の場合,弁護士が係わることが多い事件は,逮捕,勾留(少年鑑別所送致)されて,家庭裁判所に「送致」されます』・・・という説明がありました。
弁護士
高橋裕
はい。
新人職員
その説明の中の「勾留(少年鑑別所送致)」のことですか?
弁護士
高橋裕
そうです。よく気付きましたね。成人の場合,逮捕後の手続は検察官による勾留請求です。少年の場合,逮捕後の手続は,原則として,検察官による「勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)」の請求です。検察官は,「やむを得ない場合でなければ,勾留請求できない。」とされています(少年法43条3項に定められています。)。
新人職員
えっ,でも,少年でも勾留されている事件が多いです。
弁護士
高橋裕
数からみると,法律上の原則例外と実務上の運用が逆転した状況になっています。検察官が裁判官に対して勾留請求する場合は,「やむを得ない場合」であることを主張し,それを裏付ける資料を提出しています。
新人職員
実際に,問題となることはあるのですか?
弁護士
高橋裕
多くはありませんが,問題となることもあります。
新人職員
高橋弁護士が裁判官時代の経験はどうですか?
弁護士
高橋裕
私が裁判官の立場で勾留請求に対する判断の仕事をしていた当時は,家庭裁判所送致前に弁護士が付いていることは稀でした。「やむを得ない場合」であるという要件を満たしているかどうか,担当裁判官として吟味していました。
新人職員
検察官が勾留請求してきたけれども,「やむを得ない場合」とはいえないと考えた場合は,どうするのですか?
弁護士
高橋裕
法律の実務家向けの本に中でその問題が取り上げられており,勾留請求を担当する裁判官は皆勉強していました。
新人職員
高橋弁護士の実際の経験を一つ教えてください。
弁護士
高橋裕
検察官から勾留請求に対し,裁判官として,勾留は認められないが,勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)であれば認める余地があるという事案でした。先の本に書かれている一般的な見解に従い,検察官に対し,勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)の請求を予備的にするよう促しました。
新人職員
検察官は応じましたか。
弁護士
高橋裕
応じませんでした。勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)の請求はしないと回答してきました。
新人職員
高橋裁判官はどうしたのですか?
弁護士
高橋裕
予備的請求はありませんでしたが,勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)の決定をしました。勾留を認めるための「やむを得ない場合」の要件は満たしていないが,釈放するのは不相当な事案で,勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)の要件は満たしていると考えました。
新人職員
検察官からは,不服申立てはありませんでしたか?
弁護士
高橋裕
ありませんでした。
新人職員
弁護士の知らないところで,刑事事件の手続を巡って,裁判官と検察官のバトルのようなことが起きているのですね。
弁護士
高橋裕
そうです。弁護士が関与していない場面であっても,裁判官としての判断は慎重に行われています。
新人職員
基本的な質問ですが,「勾留」と「勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)」とで具体的にどのような違いが生ずるのですか?
弁護士
高橋裕
「勾留」の場合は,成人が多く入っている警察署の留置施設に入ることが殆どです。「勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)」の場合は,少年を収容して心身の鑑別を行なう施設である少年鑑別所に入ります。少年に対するいろいろな配慮が可能です。
新人職員
他に,違いはありますか?
弁護士
高橋裕
勾留の場合,10日間の範囲内で延長が可能です。最初の10日と併せて最大20日間となります。勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)の場合,延長ができません。期間は10日限りです(少年法44条3項)。
新人職員
それで,検察官は,勾留に代わる観護措置(少年鑑別所送致)請求をせずに,「やむを得ない」場合であると主張して勾留請求をしてくることが多いのですね。
弁護士
高橋裕
そうですね。事件の内容に照らして,どうしても延長が必要と思われる事案については,「やむを得ない場合」であると考えられています。
新人職員
この話を,弁護士の立場からみるとどうなりますか?
弁護士
高橋裕
弁護士の立場からみると,延長が必要とは思われない事案について,「やむを得ない場合」ではないと主張して,少年の身柄拘束期間を短くすることを目指します。
新人職員
わかりました。今日は,専門的な話が多くて難しかったですね。
弁護士
高橋裕
そうですね。「少年の保護事件」については,別項目で説明します。
新人職員
今日は,少年の刑事事件について説明していただきました。ありがとうございました。