少年の事件
刑事事件
※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
※依頼者等のプライバシーを守るため,事案の本質に関わらない点を若干修正しています。予め,ご了承ください。
新人職員
今日は,「解決事例」のうち,「少年の事件」について紹介をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。今回ご紹介する少年の事件は,「少年の刑事事件」から始まって「少年の保護事件」まで担当した事件です。
新人職員
家庭裁判所に送致される前の捜査段階(少年の刑事事件)に担当を始めて,家庭裁判所送致後(少年の保護事件)も引き続き担当した事件ですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
事件の内容を教えてください。
弁護士
高橋裕
罪名は「傷害」でした。少年が逮捕されたのは3度目でした。しかも,過去の2回ともに「傷害」。1回目は,裁判所で訓戒などの保護的措置を受けて「不処分」,2回目は「保護観察処分」,今回の事件は保護観察中の事件でした。
新人職員
うわっ,厳しいですね。少年院送致が濃厚ですね。
弁護士
高橋裕
正に,そのとおりです。私も最初に事件の内容を聞いたときは,正直なところ,そう思いました。
新人職員
結局,どうなったのですか?
弁護士
高橋裕
最後には,再度の保護観察決定をもらうことにより,少年院送致を何とか免れました。その後,再非行もなく更生しているようです。
新人職員
少年院送致濃厚な事案なのに,どうして,保護観察決定をもらうことができたのですか?
弁護士
高橋裕
先ず,手続面の説明をします。いきなり再度の保護観察決定をもらうのは難しい・・・というよりも殆ど無理な事案でしたので,一旦,試験観察決定を貰って,その後,少年の生活状況,更生状況を見て貰って,最終的に再度の保護観察決定を貰おうという方針を決めました。
新人職員
その方針は,高橋弁護士が決めたのですか?
弁護士
高橋裕
方針の案を考えたのは,私ですが,もちろん,本人(少年)及び保護者とも十分に打ち合わせして,決めました。本人(少年)と保護者が納得してくれないと,弁護士の力だけでは良い結果は得られません。
新人職員
そうですね。でも,その方針を決めても,そもそも試験観察決定を貰うこと自体が難しい事案ではないですか?
弁護士
高橋裕
そのとおりです。試験観察決定は,保護処分にするかどうか,保護処分にすることは決まったがどの保護処分にするか,裁判官が迷った場合にしばらく少年の様子を見るのが試験観察決定です。ほとんどの試験観察決定は,少年院送致にするかどうか迷う事案です。
新人職員
担当裁判官が,この少年は迷うことなく少年院送致と考える場合は,試験観察決定も貰えないことになってしまいますね。
弁護士
高橋裕
そうです。そこで,先ず,担当裁判官に少年院送致をすることに迷いを持ってもらうことが必要になります。
新人職員
どうやって,迷って貰うのですか?
弁護士
高橋裕
少年の保護事件の基本を考えることが大事です。少年の保護事件で,保護処分をどうするか?,担当裁判官はどのように考えるか,思い出してください。
新人職員
今後,犯罪行為を繰り返す危険性が大きく,少年院で教育して危険性を除去する必要があると考えたときは少年院送致,犯罪行為を繰り返す危険性があるがさほど大きくなく,保護観察によって危険性を除去できると考えたときは保護処分,犯罪行為を繰り返す危険性がない,ほとんどないと考えたときは不処分ですね。
弁護士
高橋裕
そうです。よく,学習していますね。担当裁判官に,この少年が犯罪行為を繰り返す危険性が大きいかどうか,迷ってもらうことにしました。
新人職員
迷って貰うにしても,迷うだけの状況が必要ですよね。
弁護士
高橋裕
それを見付けるのが,弁護士としての知識と経験です。この少年の場合,何か気に入らないことがあると直ぐに暴力に訴える暴力的傾向が強いため,3度目の傷害事件を起こして逮捕勾留されたのですが,警察署の留置施設で面会(接見)をする中で,その暴力的傾向が少しずつ弱くなってきているのではないかと思われる状況が今回の事件の中から見付けることができました。
新人職員
それで,どうしたのですか?
弁護士
高橋裕
あわてては,いけません。私が見付けた,その少年の暴力的傾向が少しずつ弱くなってきているのではないかと思われる状況を,少年自身にいろいろな角度から問い掛けすることによって,確認し,確かに,その少年の暴力的傾向が少しずつ弱くなってきていると考えることができると確信しました。
新人職員
その状況を直ぐに,担当裁判官に伝えたのですね。
弁護士
高橋裕
まだ,あわてては,いけません。担当裁判官は,家庭裁判所調査官を介して少年の状況を理解しようと努めますから,いきなり,担当裁判官に行くのではなく,先ず,担当の家庭裁判所調査官と話をして,私が気付いたその少年の暴力的傾向が少しずつ弱くなってきているのではないかと思われる状況を,書面を作成した上で丁寧に説明しました。
新人職員
担当の家庭裁判所調査官は,直ぐに納得してくれましたか?
弁護士
高橋裕
今日は,先をあせっていることが多いですね。そう簡単に行けば楽ですが,そうは行きません。家庭裁判所調査官は,弁護士(付添人)の話を聴いてはくれますが,その話を受け容れるかどうかは,次の段階です。家庭裁判所調査官は,法律記録,社会記録を十分に読み込んで,少年鑑別所にいる少年と複数回面談し,少年鑑別所の先生(技官)とも意見交換して,弁護士(付添人)の話を受け容れるかを決めます。
新人職員
最後には,高橋弁護士の話を受け容れてくれたのですね。
弁護士
高橋裕
そうですね。時間は掛かりましたが,担当の家庭裁判所調査官は,担当裁判官に提出する意見書に「試験観察相当」と書いてくれました。担当裁判官にも理解していただき,ようやく試験観察決定を貰うことができました。
新人職員
その少年は,その後,保護観察になったのですね。
弁護士
高橋裕
そうです。数ヶ月の試験観察期間を経て,更生に向かって進んでいるとの評価をいただき,再度の保護観察処分となり,少年院送致を免れることができました。本人(少年)はもちろん,保護者からも大変喜ばれました。
新人職員
よかったですね。ところで,その少年の暴力的傾向が少し弱くなってきたのではないかと思われる状況って,具体的には何だったのですか?
弁護士
高橋裕
これは,一言では説明は難しいですね。機会があれば,別項で説明したいと考えています。
新人職員
わかりました。弁護士であれば誰でも簡単に見付けることができる,という訳ではないのですね。
弁護士
高橋裕
そうですね。更生への向けての切っ掛けを見付けるには,多様な視点が必要になります。やはり,少年の事件に対する正しい理解(知識)と少年の事件を数多く担当した経験が生きてくると考えられます。
新人職員
はい。今日は,「解決事例」のうち,「少年の事件」について説明していただきました。ありがとうございました。