

※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
新人職員
逮捕された人,その家族から,一日も早く釈放して欲しいとよく言われますね。
弁護士
高橋裕
当然です。日常生活から警察署の留置施設という決して快適ではない非日常的な場所に身を置かされて,外に出ることができないのですから・・・。
新人職員
釈放には,いろいろなタイミングがあると聞いたことがあります。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。順番に,お話して行きましょう。
新人職員
最初は,逮捕直後ですか?
弁護士
高橋裕
誤認逮捕(真犯人が別にいて,逮捕された人は犯人でない場合)であることが,逮捕直後に明白になった場合などには,逮捕直後の釈放もあり得ますが・・・。
新人職員
あり得ますが・・・。というのは,どういう意味ですか?
弁護士
高橋裕
現実には,そのようなケースは稀であるという意味です。もちろん,諦めるという意味ではありません。そのような稀なケースと判断される事案であれば,即時釈放のための弁護活動をします。本当に,稀ですが・・・。
新人職員
次のタイミングは,いつですか?
弁護士
高橋裕
即時釈放はできなかった場合,次のタイミングとして,警察官が検察官に事件を送らずに釈放する,あるいは,釈放した上で書類送検するなどの場合があります。しかし,誤認逮捕や,逮捕されている人が重篤な急病になったような特殊な事例を除き,このような運用も稀です。
新人職員
それでは,現実的に多い事例で,最も早いのは,どの時点ですか?
弁護士
高橋裕
名古屋の事例で説明すると,逮捕の翌日あるいは翌々日に警察から検察官に逮捕された状態のまま事件が送られます。
新人職員
あっ,テレビのニュースで「○○容疑者が今日,身柄送検されました。」と言ってる,アレですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。「身柄」というのは,「身柄拘束を受けている状態」,つまり「逮捕されている状態」を示しています。
新人職員
「送検」というのは,文字から見て,「検察庁」に事件を「送る」という意味ですか?
弁護士
高橋裕
そうですね。細かく言うと,「検察官」に事件を「送致」するという言い方になりますが,ほぼ正解です。
新人職員
よく似た言い方で,テレビのニュースで「今日,書類送検されました。」という言い方も聞きますが・・・。
弁護士
高橋裕
そうですね。この場合は,「身柄拘束を受けていない状態」,つまり「逮捕されていない状態」で,「書類のみ(細かく言うと「証拠物」も)」を検察官に送るので,「書類送検」という言い方をされます。
新人職員
高橋先生,話が少し逸れています。釈放の話に戻してください。
弁護士
高橋裕
そうでした。戻しましょう。名古屋の事例で説明すると,逮捕の翌日あるいは翌々日に警察から検察庁に逮捕された状態のまま事件が送られます。
新人職員
はい。
弁護士
高橋裕
その事件を担当することになった検察官は,その逮捕されている人(被疑者)の言い分(弁解)を聴いた上で,釈放するか,裁判官に勾留を請求するか判断することになります。
新人職員
わかりました。その段階で,弁護人から検察官に対して,釈放の判断をするように求めるのですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
検察官に釈放の判断をしてもらえれば,万々歳ですね。
弁護士
高橋裕
結論としてはそのとおりですが,検察官に釈放の判断をしてもらうために,弁護活動をする必要があります。弁護人が弁護活動を何もしないで釈放してくださいと言うだけで,検察官が釈放の判断をすることは極く稀です。
新人職員
検察官に釈放の判断をしてもらうために行う弁護活動って,どんなことをするのですか?
弁護士
高橋裕
具体例な弁護活動としては,示談交渉(被害者のいる場合)をして示談書作成,示談金支払,身柄引受人を確保して身柄引受書の作成,誓約書の作成,上申書の作成,作成した書面等の提出が必要です。
新人職員
示談については,他のところで説明されていますね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
身柄引受人の確保は,どうするのですか?
弁護士
高橋裕
原則,近親者です。夫が逮捕された場合は妻,妻が逮捕された場合は夫です。
新人職員
妻が逮捕されることもあるのですか?
弁護士
高橋裕
逮捕されるのは男性というイメージがあるようですが,女性も逮捕されます。万引き窃盗などでは女性が相当数います。あっ,また,話が逸れました。
新人職員
ごめんなさい。今のは,私が,話の逸れる質問をしました。
弁護士
高橋裕
戻りましょう。身柄引受人は,原則,近親者です。夫あるいは妻。独身者の場合は,基本,親です。逮捕されている人が30過ぎ,40過ぎでも,基本は親です。祖父母,兄弟姉妹の場合もあります。
新人職員
近親者に適切な人がいない場合は,どうしますか?
弁護士
高橋裕
保釈段階での身柄引受人の例になりますが,婚約者(親族になる予定の人)の実例があります。身分上繋がりのある人に身柄引受人になって戴けない場合は,雇い主の実例があります。
新人職員
雇い主は親族ではないですが,いいのですか?
弁護士
高橋裕
身柄引受人が親族でなければならない,という決まりはありません。雇い主でも,信頼できる人物と評価されれば,適切な身柄引受人と判断して貰えます。
新人職員
検察官や裁判官が適切と判断しても,雇い主自身が身柄引受人を嫌がるのでないですか?
弁護士
高橋裕
もちろん,そのような雇い主も多いです。他方,自分の雇っている従業員が困っているのであれば助けてあげよう心意気の雇い主も結構います。その中には,被害弁償金や保釈保証金を立て替えてくれる雇い主もいます。
新人職員
えっ,そこまで助けてくれる雇い主もいるんですね。
弁護士
高橋裕
当職の経験上,建築関係で従業員数が10名~20名くらいの雇い主にそのような方が多いです。おそらく家族的な雰囲気の職場で,若い従業員から見て,雇い主が父親あるいは兄貴的立場のような状況かと思われます。
新人職員
逮捕された人にとっては,ありがたい話ですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。ただし,雇い主がいろいろと協力してくれる場合,共通点があります。
新人職員
何ですか,それは?
弁護士
高橋裕
逮捕されている人が,皆,日頃から,それぞれの職場で一生懸命に働き,雇い主の信頼を得ているということです。そういう日常の信頼があるから,つまづいたときに,雇い主が助けてくれると思うのです。
新人職員
何事も,日頃の行いが大事ということですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
なるほど。私も,日頃の行いに注意して,一生懸命に働きますので,何かあったときは,よろしくお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。まぁ,何もない方がいいですけどね。時間が少なくなってきたので,今日はここまで・・・検察官に釈放の判断をしてもらうように弁護活動をするの途中ですが・・・ここまでにしましょう。誓約書、上申書は、別の機会に説明します。
新人職員
はい。今日は,「一日も早く釈放して欲しい。」のうち,「検察官に釈放の判断をしてもらうように弁護活動をする。」の途中までのお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。