

※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
新人職員
前回の説明は,「保釈してほしい(その2)。一日も早く保釈してほしい。」の2番(保釈許可に対する弁護人の見通し)まででした。
弁護士
高橋裕
はい。
新人職員
ちなみに,保釈の早い,遅いを決める要因は,
1 事件の難易(保釈が許可されやすい事件かどうか?)
2 保釈許可に対する弁護人の見通し(適切な判断ができるか?)
3 起訴前の準備(起訴前に可能なことは全て準備できているか?)
4 起訴後の活動(起訴後に速やかに保釈請求などの活動をしているか?)
5 保釈金の準備状況(親族の協力の程度)
でしたね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。今日は,3番(起訴前の準備)から説明しましょう。
新人職員
高橋先生,起訴前の準備ということですが,保釈は起訴後に行う手続ですよね。
弁護士
高橋裕
そうです。でも,保釈後に行う手続のうち,事前に準備できるものを準備しておけば,保釈許可決定を早く貰える可能性が高くなります。
新人職員
具体的には,どんなことを準備しておくのですか?
弁護士
高橋裕
先ず,保釈請求書の起案です。もちろん,内容は100パーセント確定している訳ではありませんが,事件によっては,8割~9割書けます。
弁護士
高橋裕
そうです。でも,保釈後に行う手続のうち,事前に準備できるものを準備しておけば,保釈許可決定を早く貰える可能性が高くなります。
新人職員
他には?
弁護士
高橋裕
保釈報酬金の準備です。保釈金がいくらになるか不明の段階ですが,およその見当は付きます。弁護士の見通しの力が重要です。起訴後に不足すると,不足額の準備で遅れますので,予想よりも若干多めに準備します。
新人職員
保釈金が用意できない場合は?
弁護士
高橋裕
日本保釈支援協会に立替を依頼します。
新人職員
起訴前に,というか,起訴されるかどうか不明の状況でも,日本保釈支援協会に立替を依頼できるのですか?
弁護士
高橋裕
起訴前でも,立替を依頼できます。日本保釈支援協会のことは,他の記事で説明しています。日本保釈支援協会に立替依頼する場合,詳しいことはそちらの記事を見てください。
新人職員
はい。そちらの記事を見ることにします。
弁護士
高橋裕
なお,親族が保釈金を用意できる場合は,その方が早く進みます。
新人職員
それは,どうしてですか?
弁護士
高橋裕
日本保釈支援協会は立替が速やかに実行されるよう最大限の努力をされていますが,それでも,保釈許可決定から保釈金相当額が弁護士の預り金口座に入金されるまで何時間かはかかります。
新人職員
そうですか,わかりました。その他に事前に準備できることは,ありますか?
弁護士
高橋裕
身柄引受書です。これも起訴後に入手しようとすると,予想外に時間がかかることがあります。
新人職員
他には?
弁護士
高橋裕
その他,被告人の反省文や誓約書(弁護士高橋は必要ないと考えていますが。・・・)など,保釈請求の際に裁判所に提出する予定のものは全て準備しておくという心構えが大事です。
新人職員
なるほど。
次の4番(起訴後の活動)の話ですが,これは私にも分かります。
弁護士
高橋裕
それでは,説明してください。
新人職員
起訴されたら,事前に準備しておいた書類を直ぐに裁判所に提出する,ですね。
弁護士
高橋裕
概ね,正解です。
保釈請求書に未完成な部分があれば,速やかに完成させてから提出しましょう。
ところで,いつ起訴されたか,どのようにして情報を得ますか?
新人職員
裁判所から教えて貰えるんじゃないですか?
弁護士
高橋裕
小さな裁判所支部などで,もしかしたらそのような運用をしているところがあるかも知れませんが,大庁である名古屋の裁判所では,事務所で待っていても教えてくれません。
新人職員
じゃあ,弁護士から裁判所に電話を掛けて教えてもらうということですか?
弁護士
高橋裕
そのとおりです。電話は何時ころ,掛けたらいいですか?
新人職員
えっ,起訴されたら直ぐ・・・いつ起訴されるか? それが分かれば苦労はしない・・・。
弁護士
高橋裕
そうですね。
いつ起訴されるか?。日にちは,基本的に,土日祝日を除く勾留満期日ですので事前に分かります。担当検事に前日までに電話すると教えて貰えることが多いです。
新人職員
その日のうちの何時?は,どうするのですか?
弁護士
高橋裕
名古屋の裁判所の場合,午前と午後の各1回,検察庁から裁判所まで起訴状などの書類が届きます。その時間から少し経って電話するとタイミングとしてはBestです。親切な担当検事ですと,前日に,起訴が午前か午後か教えてくださる人もいます。
新人職員
検察庁から裁判所まで起訴状などの書類が届いたら,直ぐに電話しないのですか? なぜ,少し経って電話するとBestなんですか?
弁護士
高橋裕
名古屋の裁判所は,規模が大きく(第1部から第6部まであります),裁判官の人数,事件の数も多いので,当然,検察庁から届けられる書類も大量です。しばらく経たないと,電話しても答えてもらえません。
新人職員
あっ,なるほど。そうですよね。
最後に,5番(保釈金の準備状況,親族の協力の程度)について,説明してください。
弁護士
高橋裕
保釈金の事前準備について先ほど説明しましたが,いくら事前準備をしていても,実際にお金が動くのは,起訴後です。
弁護士もそうですが,協力してくれる親族も,保釈が見込まれる日は,保釈金の振込手続(親族が了承すれば事前振込)や,被告人を警察署までお迎えに行く時間の余裕を予め作っておくと,被告人は早く釈放されます。
新人職員
親族は,警察署まで必ずお迎えに行かなくてはいけないのですか?
弁護士
高橋裕
法律上は,親族のお迎えがなくても釈放されます。親族のお迎えがないという理由で釈放されないことはありません。
新人職員
じゃあ,親族のお迎えは不要ですね?
弁護士
高橋裕
そういう訳にはいきません。
保釈請求の際に,親族の身柄引受書を提出して,被告人が保釈された場合は必ず監督すると約束しています。その約束を信頼して保釈が許可されています。警察署までお迎えに行くのは,その約束を実行する最初の場面といえます。
新人職員
あ~,確かに約束していますね。
弁護士
高橋裕
これで,保釈してほしい(その3)一日でも早く保釈してほしい,の説明を終わります。
新人職員
保釈の話は,何回に分かれましたが,その分,いろいろなお話を聞かせていただきました。ありがとうございました。