

新人職員
今日は,犯罪の種類別のテーマで,「万引き,車上荒らし,侵入盗など」について説明をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい,量刑の話をします。これらは,いずれも窃盗関係です。法定刑(法律が定めている刑罰)は,最高金額50万円の罰金,最長期間10年の懲役となっています(常習累犯窃盗罪は前科の関係で実刑になるので除いています。)。
新人職員
盗みで10年は長いですね。
弁護士
高橋裕
実際には,被害額が数千万以上にならないと5年を超えることはありません。
新人職員
お店での商品万引きでは執行猶予はもらえますか?
弁護士
高橋裕
被害額の程度,示談(被害弁償)の有無内容,前科の有無内容,によってほぼ決まって来ます。
新人職員
刑務所に入るかどうかの境目はどこですか?
弁護士
高橋裕
事案によるので一概には言えませんが,懲役前科がなく,被害額が数万円程度までなら刑務所行きを回避できる可能性は十分あります。初犯の場合であれば,不起訴,罰金などの処分も実例が多くあります。
新人職員
示談(被害弁償)は必須ですね?
弁護士
高橋裕
とても重要ですが,必須とまでは言えません。示談(被害弁償)ができるかどうかは,被疑者の誠意,努力の他に,被害者の意向によるところが大きいので,示談(被害弁償)ができない場合に必ず刑務所に入るというわけではありません。示談(被害弁償)ができなかった場合は,被疑者が示談(被害弁償)に向けた努力を最大限しているかどうかが重要になって来ます。
新人職員
示談(被害弁償)ができなかった場合,寄付するとよいと聞いたことがあります。
弁護士
高橋裕
贖罪寄付のことですね。
新人職員
あっ,それです。
弁護士
高橋裕
「贖罪」という言葉は,広辞苑にも載っています。「体刑に服する代わりに財物を差し出して罪過を許されること」「犠牲や代償を捧げることによって罪過をあがなうこと」などと解説されています。
新人職員
広辞苑にも載っている言葉なんですね。
弁護士
高橋裕
刑事裁判では,被害弁償ができない場合,あるいは,被害者がいない犯罪(交通違反,覚せい剤所持など)について,犯罪を犯した人(被疑者,被告人)が反省の気持ちを具体的に表す一つの方法として,考慮されています。
新人職員
金額はいくらでも良いのですか?
弁護士
高橋裕
被害弁償ができない場合に贖罪寄付を行うときは,弁償すべき額が目安になります。被疑者(被告人)の反省の気持ちを具体的に表す一つの方法として寄付をするので,弁償すべき額と全く同じでなくてはならない訳ではありません。一応の目安です。
新人職員
被害者がいない犯罪(交通違反,覚せい剤所持など)では,金額はいくらでも良いのですか?
弁護士
高橋裕
被害額に対応した目安というべき数字はありませんが,資力に応じて寄付額を考えるべきです。犯罪を犯した者(被疑者,被告人)が反省の気持ちを具体的に表す一つの方法として考慮されるのですから,それなりの金額は必要と考えた方がよいでしょう。
新人職員
具体的な数字を示してもらえませんか?
弁護士
高橋裕
裁判官時代の経験からすると,毎月生活できるだけの収入がある人(被疑者,被告人)が,子どもの小遣い程度の額を寄付したというのでは,反省の気持ちを具体的に表す額とは言えないのではないかと思います。起訴不起訴を決める検察官の処分決定や,判決をする裁判官の量刑に影響を及ぼすことを期待するのであれば,少なくとも数万円以上,できれば10万円以上を寄付するのがよいと思われます。
新人職員
2~3万円前後の贖罪寄付が多いように聞いたことがあります。
弁護士
高橋裕
裁判官の量刑判断に与える影響はゼロとは言いませんが,かなり小さいです。
新人職員
逆に,数千円の贖罪寄付で不起訴にして貰った事例があると聞いたこともあります。
弁護士
高橋裕
当職も弁護士になってから,そのような事例を担当したことがあります。
それは,数千円の贖罪寄付をしたから不起訴になったのではなく,仮に,それが無くとも不起訴の可能性が十分にあると考えられる事案でした。不起訴処分をする検察官の背中を軽く押したという感覚です。
新人職員
同じような事件を繰り返している場合は,執行猶予は期待できないですか?
弁護士
高橋裕
常習性があるということで厳しい状況にはなりますが,起訴された事件の数と被害総額,前科の有無内容によっては,執行猶予を期待できる場合もあります。このような厳しい状況になってくると,示談(被害弁償)が重要性を増してきます。
新人職員
事件は全部起訴されるのですか?
弁護士
高橋裕
高級車窃盗のように1件ごとの被害額が大きい場合は,全件起訴されます。万引き窃盗のように1件ごとの被害額が小さく数が多い場合は,全件起訴はされないのが通例です。
新人職員
共犯事件で注意することはありますか?
弁護士
高橋裕
共犯事件では,主導的役割を果たしたか?,犯罪による利益をどの程度受け取っているか?,などの点が量刑に影響してきます。これらの点をしっかりと検察官や裁判官に訴えていくことが大事です。
新人職員
今日は,犯罪の種類別のテーマで,「万引き,車上荒らし,侵入盗など」について説明をしていただきました。ありがとうございました。