

新人職員
今日は,「少年鑑別所について」というテーマで説明をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。「少年の刑事事件」と「少年の保護事件」の説明の中で,少年鑑別所と少年院が登場しましたね。違いはわかりましたか?
新人職員
はい。少しは分かりましたが,詳しいことは分かりません。
弁護士
高橋裕
その少し分かった点は,どういうところですか?
新人職員
少年院は,「少年の保護事件」で家庭裁判所が最終処分(保護処分)の一つとして,非行を行なった少年を送致する矯正施設ということです。
弁護士
高橋裕
よく,理解していますね。そのとおりです。少年院は,手続としては,家庭裁判所が最終処分(保護処分)として少年を送致する施設であり,施設の性質としては,犯罪行為を行う危険性がある少年の犯罪性を除去する矯正施設です。
新人職員
少年院の種類や少年院に入る年数などがよく分からないのですが・・・
弁護士
高橋裕
今日は,少年鑑別所の説明をメインにしていますので,少年院の種類や少年院に入る年数については別の機会に譲りましょう。
新人職員
はい。
弁護士
高橋裕
少年鑑別所については,どのように理解していますか?
新人職員
少年鑑別所は,少年の保護事件で最終処分(保護処分など)を決めるまで少年を入れて(収容して)おく施設です。
弁護士
高橋裕
半分正解です・・・少年鑑別所が登場したのは,少年の保護事件(家庭裁判所に事件送致された後)の場面だけでしたか?
新人職員
あっ,少年の刑事事件(家庭裁判所に事件送致される前)の場面で,「勾留に代わる観護措置」というのがあって,そこで,少年鑑別所が出てきました。
弁護士
高橋裕
よく,思い出しましたね。補足説明します。少年事件の実務上,「観護措置」と「少年鑑別所送致」はほぼ同じ意味で使われていますが,本来,「観護措置」には2種類あって,少年鑑別所送致の他に「調査官観護」というものがあります。
新人職員
調査官観護ですか?聞いたことありません。
弁護士
高橋裕
それが普通です。調査官観護は,法律(少年法17条1項1号)で定められていますが,実際にはほとんど運用されていないようです。私も裁判官時代に7年間少年事件を担当しましたが,調査官観護の決定をしたことも,他の裁判官による決定を見たこともありません。
新人職員
聞いたことはないのですか?
弁護士
高橋裕
聞いたことはあります。裁判官の大先輩から,「少年法ができて間もない昭和20年代に一度,調査官観護の決定をしたことがある。」と聞きました。
新人職員
どうなったのですか?
弁護士
高橋裕
その裁判官も,裁判官になって間もない時期で実務上,調査官観護がほとんど行われていないことを知らずに,法律の条文を見て決定を出したとの話でした。もちろん担当した家庭裁判所調査官も初めての経験で大変苦労したということを聞いています。
新人職員
少し話が逸れましたが,少年鑑別所送致の話に戻してください。
弁護士
高橋裕
はい,整理します。少年鑑別所送致は,①家庭裁判所に事件が送致される前(少年の刑事(被疑)事件)の場面で,勾留に代わる観護措置として行われる場合,②家庭裁判所に事件が送致された後(少年の保護事件)の場面で,(本来の)観護措置として行われる場合,の2種類あります。
新人職員
実務上,よく見るのはどちらですか?
弁護士
高橋裕
実務上,少年鑑別所送致のほとんどは②の場合です。
新人職員
①,②以外で,少年鑑別所に収容されることはありますか?
弁護士
高橋裕
あります。勾留場所を少年鑑別所とする勾留の場合,逆送後に少年鑑別所に引き続き収容される場合もあります。その説明は別の機会に譲ります。
新人職員
はい。ところで,①と②の日数は,同じですか?
弁護士
高橋裕
日数は異なります。①は勾留に代わる措置ですので10日間です。少年法で明示されています。そして,延長はありません。10日間で終了です。②は,原則2週間,例外として更に2週間の更新が可能です。実務上は,ほとんどの保護事件について更新されており,原則と例外が逆転した状況になっています。
新人職員
①と②で,少年鑑別所の中での生活は異なってくるのですか?
弁護士
高橋裕
基本的に同じです。①の家庭裁判所に送致される前(少年の刑事(被疑)事件)と,②の家庭裁判所に送致された後(少年の保護事件)とでは,少年の立場は異なりますが,中での生活状況は基本的に同じです。
新人職員
違いがあるとしたら,どのような点ですか?
弁護士
高橋裕
①の家庭裁判所に送致される前は,警察や検察の捜査段階ですので時折,取調べの時間があります。他方,②の家庭裁判所に送致された後は,捜査は終わっていますが,新たに,家庭裁判所調査官により調査が始まり,家庭裁判所調査官が何度か調査のために訪れます。このような点が違ってきます。
新人職員
弁護士の面会は,どうなりますか?
弁護士
高橋裕
①の場合も,②も場合も,必要に応じて面会します。ただし,面会の時間帯は,少年鑑別所内での生活,規律維持のため,夜間は面会できないなど一定の制限があります。
新人職員
家族の面会は,どうですか?
弁護士
高橋裕
家族も面会できます。殊に,②(家庭裁判所に送致された後)の場合,家庭裁判所の最終処分に向けて,保護者の面会は重要です。
新人職員
少年鑑別所の中で,少年は,日常生活とは別に何か行なっていますか?
弁護士
高橋裕
少年鑑別所の中で生活している少年の多くは,②(家庭裁判所に送致された後)の場合です。家庭裁判所による最終処分を待っている状況です。しかし,ただ待っているのではなく,鑑別所技官と呼ばれる専門的知識を持った職員が,家庭裁判所がどのような最終処分をしたらよいか決めるための資料を作成します。そのため,少年に,今回の事件や,家庭環境,交友関係,これまでの生活状況などを振り返って考える時間を与えて作文を書かせたりしています。
新人職員
少年に内省の機会を与え,内省を促しているということですか?
弁護士
高橋裕
それが,一つです。並行して,鑑別所技官が,少年の内省状況,少年鑑別所内での生活態度や,家庭環境,交友関係,これまでの生活状況の振り返りの様子などを慎重に観察するためでもあります。
新人職員
慎重に観察してどうするのですか?
弁護士
高橋裕
慎重に観察しながら,非行を行なった原因,家庭環境,交友関係,生育歴などを十分に検討して,少年が将来犯罪行為を行う危険性の有無やその程度などを考察し,少年の将来の犯罪行為を防止するためには,家庭裁判所がどのような最終処分(保護処分等)をしたらよいか,意見を書面で提出することになります。この書面は「鑑別結果通知書」と呼ばれます。
新人職員
家庭裁判所調査官の意見と,少年鑑別所の意見は,必ず一致するものなのですか?
弁護士
高橋裕
一致する事案が多いですが,常に一致する訳ではありません。少年の将来の行動を予測して適切な最終処分(保護処分等)を決めるのはとても難しいです。立場や視点が異なれば意見が異なることもあります。
新人職員
わかりました。他にも,事件記録に,検察の意見,警察の意見が記載されていますね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。さらに,保護観察中の少年の場合は,保護観察状況とともに保護観察所の意見も書面報告されます。裁判官は,これらのいろいろな視点からの多様な意見を理解し,最後には審判で直接に少年から話を聴いて,最終処分(保護処分等)を決めることになります。
新人職員
少年の保護事件において,少年鑑別所での生活はとても重要ですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。
新人職員
今日は,少年鑑別所について説明していただきました。ありがとうございました。