早期保釈-的確な見通しにより早期保釈-
保釈・釈放
※弁護士事務所に勤務して間もない新人職員(少しの知識と経験あり)からの質問に答えるという形で説明しています。
※依頼者等のプライバシーを守るため,事案の本質に関わらない点を若干修正しています。予め,ご了承ください。
新人職員
今日は,「解決事例」のうち,「早期保釈-的確な見通しにより早期保釈-」についてお話をお願いします。
弁護士
高橋裕
はい。起訴後の被告人は,皆,「一日も早くここから出してください。保釈を早くお願いします。」と口をそろえて言います。起訴前から,「起訴されたら,直ぐに保釈手続をしてください。」と言っています。
新人職員
まぁ,それはそうでしょうね。警察署の留置施設での生活は辛いようですから・・・私は入ったことはありませんが・・・。
弁護士
高橋裕
そうですね。特に,初めて逮捕勾留された人にとっては本当に辛いようです。早く保釈を貰うためには,どうしたら良いか,分かりますか?
新人職員
はい。起訴される前の段階から,①保釈請求書を作成しておく,②身柄引受人を決めて身柄引受書を入手しておく,③予想される保釈保証金額を少し上回るお金を準備しておく(お金がない場合は日本保釈支援協会による支援手続を済ませておく),などの事前準備が大事だと思います。
弁護士
高橋裕
よく学習していますね。いずれも適切な指摘です。
新人職員
今日は,好調です。
弁護士
高橋裕
でも,それだけでは満点ではありません。
新人職員
どの点が不足ですか?
弁護士
高橋裕
早く保釈許可を貰うためには,保釈請求に対する裁判官の判断の見通しを的確に行なうことが大事です。
新人職員
まぁ,それはそのとおりですが,弁護士であれば誰でも保釈請求に対する見通しを立てているんじゃないですか?
弁護士
高橋裕
誰でも見通しは立てています。
新人職員
何が違うんですか。
弁護士
高橋裕
その見通しが「的確」かどうかです。
新人職員
その見通しが「的確」でないこともあるのですか?
弁護士
高橋裕
約20年間,刑事事件担当裁判官を務める中で,数多くの保釈請求事件を担当してきました。当然,数多くの保釈請求書を検討しました。
新人職員
請求する弁護士によって,違いはありましたか?
弁護士
高橋裕
あります。刑事弁護を数多く担当した経験のある弁護士が作成した保釈請求書は的確なものが多かったです。反対に,刑事事件をあまり担当した経験がない,乏しいと思われる弁護士が作成した保釈請求書は的確でないものが一定数ありました。
新人職員
今さら質問しにくいのですが,「的確である」と「的確でない」の違いは?
弁護士
高橋裕
辞書に書いてあるとおりです。広辞苑で「的確」を見ると「的(まと)を外れず,確かなこと。」と書いてあります。
新人職員
なるほど。「的確である」は,的(まと)が当たっていること。「的確でない」は,的(まと)外れということですね。
弁護士
高橋裕
そうです。裁判官が保釈を許可するかどうか?,という最も重要な点についての見通しが,的(まと)外れになっている保釈請求書を時折り見かけます。
新人職員
でも,弁護士の立場から見れば,請求した全ての事件について,保釈が許可されるべきであると言えるのではないですか?
弁護士
高橋裕
請求した全ての事件について保釈が許可されるべきであると考えるのであれば,尚更,その保釈請求に対する裁判官の判断見通しを的確に行うべきです。
新人職員
どういう意味ですか?
弁護士
高橋裕
裁判官が保釈を許可する見通しの事案であると的確に判断することができれば,保釈請求書は簡潔な記載で済みます,保釈保証金も最低ラインに近い額を準備すれば大丈夫です,身柄引受書が間に合わなくても追完扱いにして保釈請求することも可能です。
新人職員
いろいろな場面で影響してきますね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。反対に,裁判官が保釈を許可することは相当に難しい事案であると的確に判断することができれば,保釈請求書は保釈許可に難色を示す裁判官を説得するために充実した内容(単に頁数が多いという意味ではない)にする必要が生じます。許可されるとしても,保釈保証金も最低ラインでは到底足りず,相当上乗せした金額を準備しなくてはなりません。身柄引受書は保釈請求書に添付は必須です。起訴前に必ず入手しておくことが必要不可欠です。
新人職員
その見通しを誤って,逆の対応をしてしまうと,正に「的(まと)外れ」になってしまうのですね。
弁護士
高橋裕
そうです。過去にあった事件で,保釈許可決定を得ることは難しいと思われる事件を担当しました。しかし,保釈許可が難しい状況にあることは否定できないが,許可される見込みもあると見通し,充実した内容の保釈請求書を作成して保釈請求したところ,保釈許可決定を得ました。保釈保証金額は,最低ラインの倍額で予想どおりの額でした。
新人職員
見通しを的確に行うことができた成果ですね。
弁護士
高橋裕
そうです。なお,その事件は共犯者多数の事件でした。私の担当した被告人は起訴日の翌々日に一番早く保釈されましたが,共犯者らの保釈は,起訴日の1週間後~3週間後でした。
新人職員
なぜ,そんなに違ったのですか?
弁護士
高橋裕
後日,事件に関する情報交換をする中で,共犯者の弁護人から聞いた話です。第1回公判期日前の保釈許可決定を貰うのは困難であると考え,保釈請求を差し控えていた。しかし,一緒に起訴された共犯者が保釈許可されたのを知って急いで保釈請求した。という話でした。
新人職員
見通しが違うだけで,そのような違いが生ずるのですね。
弁護士
高橋裕
そのとおりです。このような事例を通じて,判断権者(保釈の場合は裁判官)がどのような判断をするかについて,的確な見通しを持つことの重要性を理解して貰えたと思います。
新人職員
よく理解できました。
弁護士
高橋裕
もっとも,これは保釈に限った話ではありません。他の場面でも,判断権者による判断の見通しを的確に行うことは重要だと思います。
新人職員
わかりました。今日は,「解決事例」のうち,「早期保釈-的確な見通しにより早期保釈-」についてお話をしていただきました。ありがとうございました。